ご近所を一件ずつ驚かしてやろうと思ったのに、
振り売りのおばちゃんがあっという間に広めてしまった。
おばちゃんがお客さんを呼びに行っているスキに常連客相手に
「今日はふくらぎの刺身あるぞ」とか言って
発泡スチロールの箱を勝手に開けて、一日店長になりすまし。
戻ってきたおばちゃんに
「これ、とーちゃんと食べれ!」
と、白バイ貝の煮付けをお土産に手渡され、体よく追い返される。
聞きつけた食堂のゆうこりんが息せき切って店から出てきた。
「よかった!まだいて。これ持って行って! 道中で食べて!」
と、紙袋を持たされた。
干しわかめ、塩せんべい、輪島塗りの箸が詰め込まれていた。
最後に隣のばあちゃんの家をのぞいた。
今でも月に1度は電話をくれるばーちゃん。
「おばちゃーん」と玄関から声をかけると、
「ハイハーイ!どちらさんですかぁー?」と、
いつもの調子でよっこらよっこら玄関に出てきた。
私の顔を見るや、入れ歯が外れたみたいに口をポカーンと開け、
同時に私のオッパイを触ってきた。
ダラババァ健在。
お土産の梅干しを手渡すと、
「ちょっと待ってや」と、えっこらえっこら家に戻って、
「はい、これ」となぜかサラダ油1本くれた。
そばに一緒にいたSさんは
「重てぇぞ」とボソリ。
私も
「オレイン酸とか書いてるし、カラダによさそうな油だよ。
おばちゃん、使いなよ」とやんわり断るも、
「なーん、えーさけ、えーさけ」と婉曲表現が通じない。
お返しを忘れないばーちゃんの義理堅さは、
サラダ油の重さを忘れさせてくれた。(ウソ)
蔵出し品をさんざん供出させ、引っ越しの時と同様、
荷物がいっぱいになった。(つづく)
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