新聞の求人広告で、文化ホールの受付バイトを見つけた。
年齢制限はいちおうクリア。弁護士事務所から返却されてきた履歴書の日付だけ書き直して発送!
数日後、「面接と試験」の案内が届く。
おっしゃ!試験ならまかせとけ! さすがに今度は「好きな歴史上の人物」なんて 問題はあらへんやろ。
当日。 「受付嬢」(?)だけあって、会場にはそれなりに雰囲気のある人が多い。
わたしよりチンチクリンなのがいないか見渡すと……
お、いたいた。親しみを込めて笑顔を送ると、向こうも 同じことを考えていたのか、苦笑いをしている。
会場にジャストで着いたのは私くらいで、みんなもう試験問題を解いている。
漢字の読み書きに始まり、四字熟語、2次方程式、そして、「敬語になおしなさい」の書き換え問題。
Q1 「名前はなんですか」
Q2 「知ってますか」
Q3 「わかりません」
Q4 「そちらへ行きます」 ・・・等々。
さすが「受付嬢」らしい問題だ。
わたしは試験中、ちょっと余裕があると別のことを考えてしまう悪いクセがある。
「関西弁になおしなさい」と問われたとしたら……
A1「自分、名前なに?」
A2「知ってはりまっか」
A3「わっからへんっ、ちゅーねん!」
A4「待っとれや」
気分はすっかり「番長」。肩で風を切って面接へ。
面接でもハキハキと答える他の人に比べ ニヤニヤとしまりのない笑みを浮かべるわたしはどうも場違いで、早くその場を去りたかった。
自己PRでは、「しんどい人を介助したり、気持ちに添えるよう 努力できます」と思いつきで言った。
面接官はフムフムとおおいに頷く。リアクションがいいぞ。
そう言えばこの事務所は福祉財団のメセナ事業みたいなもんだ。おっと、もしかしたら脈アリ?
数日後、面接先の担当者から留守番電話が入っていた。 「結果は後日郵送」と言われてたので、 ははあ~ん、さては事前のオファーやな。と思った。
病院に入院中の父にも実は、 「わたし受付嬢のバイトするかもしれへん」と伝えた。
「アンタなら大丈夫や」と父は意味不明の返事をした。
翌日、電話がかかってくる。 わたしはありったけの愛嬌を振りまいて
「わざわざお電話をいただきまして・・・」とあいさつした。すると
……向こうの担当者はとてもバツが悪そうに、 でも断固たる調子で、
「たいへん申し訳ありませんが」と切り出してきた。
えっ?えっ?
すっかり「受付嬢」になるつもりだったので、 向こうが何を言わんとしているのか とっさにわからない。
担当者は(そんなこったろうと思った)と言わんばかり、電話の向こうの声が笑っている。
「いや、あのですね、受付の方はちょっと今回はアレなんですが、どうでしょう、事務の方でアルバイトなど。受付と違って、まぁ、お客様に直接接する、ということはないのですが・・・。」
ちょっと待ってヨ。それじゃまるでわたしを人前に出すのがなんか問題あるワケ?
だんだんと声がトーンダウン。
担当者は私のとまどいを察知してか、電話の向こうで笑いをこらえてる気がしてならない。
「アンタなら大丈夫」といった父の言葉は、単に親バカ というより、なんの根拠もないデタラメということが証明された。
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