「応急処置は適切な判断だったと思います」
まるで田舎の医者にかからなくてよかったね、とでも言いたげ。
「まぁ、島根の田舎、と、言ったらなんですが、いいお医者さんも、中にはいらっしゃると思いますがね」
言ってはなんですが、・・・って言ってるやん!
確かにこの先生のもとにはプロ野球の選手も来院している。
日赤で「神経を掻き出して、差し歯」と説明された時は、
「神経を掻き出す」という語感だけで気を失いそうになった。
その点、スポーツ選手の治療にあたっていれば、歯が折れたなんて
お手の物だろう。
「宮崎先生」は、半分だけ残った前歯に仮歯を強力な接着剤
でくっつけて、神経が回復するまで様子を見る、という方針をとった。
折れた歯の断面を絵に描いて、
「この断面がいわば関ヶ原です。断面が広いほど、送り出される兵士、つまりこの場合神経なんですが、兵士の数が追いつかないんですね」
以前、口の中を「イラク」、歯周病菌を「アルカイダ」にたとえ、
「説明はわかったが、例えとして不適切」と、
私がムキになったことを思い出したのか、
途中、「ふふふ、わかりましたか?」と笑い出した。
私も前歯の欠けた顔で笑うしかなかった。
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