ミラクル部長

新しい職場(文化ホールの事務)で初仕事。
私より若い社員の女性と、主婦バイトが2人。ほのぼのしたカンジ。
昼前になっておじさんが「おはよう」と入ってきた。
ここの部長だ。あいさつするなり、「すまん!」
と身を翻し、せわしくトイレに駆け込んだ。

ホッとした顔で戻ってくると大きな声で
「いやあ、健康診断でバリウム飲んでたもんで」
昼飯前に言わんでも・・・。
別のオジサンが駆け込んできた。
「すみません!部長!!」
「キミ、すみませんじゃないよっ!」
温厚そうな部長が怒っている。
「家で女房と子どもにさんざん怒られたんだぞ!」
どうやら自分のパソコンをセキュリティかけずに
他人に貸し出してしまったらしい。
「いろんなデータが入ってるんだ。アドレスなんかの個人情報も、家計簿も、犬の名前だって・・・。」
家計簿?犬の名前??
部長が外出先から戻ってきたとき
「お疲れさまです」と声を掛けると
「お疲れサンよォ~」と森進一のおふくろさんの
ベタな替え歌で応答。みんなが無視すると
「♪春よ来い、早く来い」と寂しそうに唄う。
この部長サン、この春で定年退職になるそうだ。
古き良き伝統が失われるようで残念や。

まだ仕事らしい仕事もなく、チラシを折ったり
雑用をしてると、パラパラパラ、シャッシャッシャッ・・・
なにやら音がする。
見ると部長がトランプを切っていた。一番年長のパートの女性は
軽く無視してる。
「部長、わたしもうタネ知ってるから、レイザルさんに見せてあげたら
どうですか?」
なんか私にふってへん?
部長は私の前にやってきて
「いいかい・・・」と言って器用にカードを切る。
「好きなカード引いて」
なんか私にもわかりそうなタネやなぁ。
仕掛けを見てしまわないように気を遣い
別の意味でドキドキする。
部長は引いたカードを当てたり、ポケットから
不意にカードを出したり、マジックをご披露。
おおすごい!とわたしが感心してると
じゃあこれも。こんなんも。と次々披露。
他の人はさんざん見せられてきたのだろう。無視している。
私はすっかり、この部長にハマってしまった。

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