福島ではエゴマのことを「じゅうねん」と呼ぶ。栄養豊富で10年長生きするから、とも、種子を十年保存できるからとも言われる。
エゴマ油は最近話題になっているが、関西ではあまり見ることはない。関西はゴマが中心で、東北地方などの寒冷地でエゴマがつくられる。名前はエゴマだが、ゴマ科ではなくシソ科だ。
福島の阿武隈山地は10年に一度は深刻な冷害に襲われてきた。天明の大飢饉では1783年に旧東和町と旧岩代町を中心に約千人の犠牲者が出た。その教訓から、小麦、大豆、粟、きび、えごまなど雑穀を栽培し、冷害に備えてどの農家もジャガイモをつくってきた。
夏の定番レシピがエゴマをつかった「じゅうねんの冷や汁」だ。
福島で食べる前に、レシピをもとに自分でつくってみたらこんな汁ができた。
ソーメンにつけて食べた。甘いみそ味だからまずくはないが、微妙に苦くてえぐい。エゴマの味がおいしいとは思わなかった。
7月末、福島県二本松市の有機農法の農家で「冷や汁」をごちそうになった。見た目から異なる。舌ざわりは生クリームのスープのようになめらかで、生クリームに似た独特のこくを感じられる。えぐみや苦みはまったくない。
「同じ料理とは思えない。フランス料理のスープみたいですね」と僕が言うと、「俺らはフランス料理なんてわかんねぇ」と笑い、「黒っぽいのは炒りすぎ。プチプチっと音がして香りがただよってきたら火を止めなさい」と助言してくれた。
帰宅して、つくってみた。たしかにエゴマのクリーミーな風味が出てきたが、ごちそうになった汁ほどの風味はない。エゴマの質のちがいだろうとあきらめた。
ところがもう一度写真を見直して、大事なことに気づいた。
見た目のなめらかさがちがう。
そうか! 「擂る」作業が不十分だったんだ。
3度目、今度は入念にしっとりするまでエゴマを擂り、みそと砂糖を加えてさらに擂った。
ようやく二本松で食べた冷や汁の色と味になった。
福島で買ってきたエゴマがなくなったころにやっと自分なりの冷や汁が完成した。
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