車2台で出発。きょうのゴールの大附は、すれちがいも難しい道をたどった山の中にある。
日置川沿いの出発点の宇津木まで車で30分。
きょうは、日置川支流の城川沿いの県道をひたすら上流に向かって歩くのだ。
9時45分、宇津木のバス停の周囲に何軒か家があり、コイノボリがはためき、子どもがスコップで砂をまぜてコンクリートづくりを手伝っている。
沿道の木を切っているおじさんは大附出身。岩が落ちていると車がパンクするから、ボランティアで見回り雑木を刈っているという。
ザーザーという音を聞きながらひたすら川沿いを歩く。山を見ると、照葉樹の新緑がよくわかる。黄色っぽい若草色だ。あちこちにフジの紫の花が咲いている。
「避難場所 中村金次郎氏宅」といった看板がときどきある。日置川沿いでは高台にある民家が避難所になっている。そういう制度をつくったのだろうか。
安倍晋三のポスターがあちこちにあるが、「TPP断固反対のポスターなくなったなあ」とサル。一気にはがしたのだろうか。
10時半(3.1キロ)竹里亭、という建設中のおしゃれな建物がある。小川(こがわ)という集落だ。「料亭じゅんちゃん」という店から出てきたおじさんに聞いたら「兄貴が山の木を切って宿泊施設をつくっている」という。ちなみに料亭は、定年でもどってきて2年ほど前に開き、客がいるときだけ営業しているそうだ。
集落内の令薬寺にはトイレもある。
境内の軍人墓を見ると、ビルマ戦線で死んでいる。川沿いのロケーションはすばらしいが、見える部分が護岸工事されているのがもったいない。
本堂の壁面に穴の開いた石がたくさん吊ってある。薬師如来が本尊だからだ。
小川区民会館のところは、なぜか「中村」というバス停がある。
「藍染めできます」という看板があった。集落のちょっと先から川に向かっておりた建物が「小川工房」で、藍染め体験もできるらしい。小川という地区は藍染めと関係があったのだろうか。
家の庭に観音堂がある家がある。コウヤマキがところどころに生えていて、石仏などにまつってある。なぜここにコウヤマキなのか。
11:06(4.9キロ)、川沿いの杉林に「薬師如来天降り場所」という案内板があった。川原まで降りると、猪垣のわきに、四角い小さな碑がある。「小川出身の森田千津子氏が、口碑にもとづいてさがしあてた」と書いてある。森田さんって、いつごろの、どんな人なのか。
まもなく熊野谷道標地蔵があった。「右は城道、左は山道」と書いているらしい。道標が点々とあるということは、街道が通っていたということなのだろう。
紫のフジの花が美しい。
11:45(7.3キロ、標高92メートル)。赤い岩の割れ目から水が噴き出している。赤いのは水の成分のせいだろうか。やわらかで甘みも感じる水だ。
茶なのかサカキなのか、沿道のあちこちに常緑樹がたくさん育てられている。白い花が咲いている。茶の花は秋だから茶ではない。
両脇の山が離れて平地が広がって盆地の集落に入った。盆地では谷が浅くなって川が身近になる。11:15(7.8キロ、101メートル)、「城」という集落だ。家がけっこうたっていて、「城青年会館」にはトイレがある。でもこんな山奥に「青年」がいるのだろうか。
左手の高台にある西来寺までのぼってみる。軍人墓があり、お堂の後ろにイチョウの巨木がそびえている。
盆地の集落が見渡せる。おばあさんが掃除をしていた。「昔は100人もいて栄えてたけど、今は7人しか住んでない」という。え? 耳を疑った。たくさんある家のほとんどは空き家なのだ。
12:00(8キロ、114メートル)。本堂の石段に腰を下ろして、めはり寿司を食べる。玄米にかつぶしをまぶしてあって、なかなかおいしい。
12:20発。川の音や鳥の声、虫の声がひびきわたる。家はたくさんあるのに人は消えてしまったのだ。
「大日如来石塔」の隣の家はちょっとおしゃれなつくりだ。
昔は雑貨屋で、100歳近いおばあさんが住んでいたが、今は無人という。さっきのおばあさんの家に、田辺市街に住んでいる息子夫婦がいた。缶コーヒーをごちそうになった。
右手のアートっぽい家につづく小道に入る。
木彫りなどの作品が飾られ、植物の名やお地蔵さんの案内板もある。
小さな歩行者用の橋をわたってさっきの県道に合流する。
この2,300メートルだけは昔ながらの雰囲気が残っている。アートのおじさんに集落の歴史を聞いてみたい。
まもなくすさみ町に入り、13:13(10.9キロ、147メートル)まだら岩という案内板がある。急斜面を渓流まで下りると、ミルフィーユのように縞模様の層をあらわにした岩があった。自然がつくったアートだ。
県道の法面から水が湧き出している。名水、だそうだ。明治時代の地蔵が飾ってあるから、昔から旅人が喉を潤したのだろう。ここも岩肌が赤く染まっている。
13:49(12.7キロ)、小さな集落に入った。廃屋しかないのかと思ったら軽トラックがある。
小附だ。ずいぶん川幅も狭まってきた。さらにのぼると、山と山の間が離れて平地が広がり、川も広がった。14時(13.6キロ、206メートル)また集落に入った。左手の斜面は段畑か棚田の石垣があり、民家も何軒かある。
フジの花が美しいが、この花がはびこっているということは、人の手が及ばなくなっているのだろう。フジは滅びの花なのかもしれない。アジサイのような白い花はコデマリ。満開だ。
久しぶりに水の張った田んぼがあり、田植えをしている。まもなく大附に入った。
大きな牛舎のような建物は廃屋化している。こんな大規模な施設、いつだれがつくったのだろう。
協働組合のような組織があったのだろうか。島根の程原を思い出す。
14:20、白いモダンな木造建築があると思ったら、大附の診療所だった。大きな集落だったのだろう。水が入っている田を見るとホッとするが、TPPが加わったらどうなるのだろう。
太陽光のパネルがならんでいる一角がある。「井上電工大附事業所」と書いてある。太陽光発電は雇用を生みださない。
静まりかえった集落に太陽光パネルが威容を誇る風景は、うらさびしさを感じさせる。
14:25着(15キロ、232メートル) (つづく)
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