峠道は約9キロの行程だ。
県道から右手にのぼっていく枝道に入ると、北向地蔵と、その近くに「鹿供養塔」がある。
なぜここで鹿供養なのだろう。
払合川沿いの林道をのぼる。川べりに立派な石垣が残っているのは払合集落の跡だという。
左手の斜面に古座街道を示す小さな案内板があった。最近整備されたものだ。そこから杉の山の急坂をのぼっていく。
人工林は下草や実のなる木がないからか鳥もいない。山がしーんと静まりかえっている。35分ほどで尾根に近づくと、ウグイスの声がもどってくる。しだいに森が明るくなると尾根道だ。尾根の左手はヒノキの森で、右手の海側はウバメガシなどの照葉樹の森になっている。(鳥渕から1.9キロ、標高372メートル)。
木が伐採されたところから、田辺や白浜のまちや、太平洋を一望できる。
ヒノキと雑木が交互する尾根の森をのぼっていく。石畳の跡と思われる岩がところどころに残っている。
「焼地蔵」は、枯れた古木の根元に立っている。なぜかメガネが供えられている。
鳥渕から3.9キロ歩いて標高500メートルの尾根の林道に出た。しばし休憩して林道の反対側からまた尾根をのぼるとまもなく、峠の地蔵があった。
照葉樹林の小道を下る。木漏れ日が地面に幾何学模様をつくりだす。
ゼンマイかワラビがすっくと立って、枝別れして、Vサインをするようにして林床を覆っている。
落ち葉が足下でさくさくと音がする。落葉樹とちがい、照葉樹は春に古い葉を落とし、新しい葉と入れ替わるのだ。だから、枝の先端には明るい色の葉が輝いている。
炭焼き窯跡をへて、ヒノキの植林帯と照葉樹の森を歩くうちに、樹間から日置川の緑の水が見えた。
大きな川は、風景に落ち着きを与えてくれる。
鳥渕から5.7キロで谷まで下りた。道標地蔵がある。
黒いパイプが下流に伸びている。集落の水源なのだろう。
まもなく舗装道に出た。すぐわきの「宝蔵庵」?は、門のかわりにイチョウの古木が2本そびえている。
境内には地蔵が林立している。周囲は墓地だ。大きな集落だったのだろうか。
養殖池があり、赤い魚が泳いでいる。家が1軒だけある。箱罠に小鹿がとじこめられて暴れている。
その家からちょっとおりると日置川だ。
護岸工事がない自然なままの流れだ。昔は「宇津木の渡し」があったという。
川沿いを上流へ。家がもう1軒あった。廃屋が1つ2つ。もしかしたら5年前の洪水をきっかけに離村したのかもしれない。
鳥渕から3時間7キロで、前もって車を置いておいた県道に到着した。(つづく)
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