2011年の紀伊半島大水害で出入りできなくなっていた百間山渓谷が昨秋から復旧したと聞いた。
8月の暑い日に訪ねてみた。
田辺市街から1時間余り、日置川の支流熊野川の源流部にある。登山口には広々とした駐車場とトイレが整備されている。水害ではこのちょっと上流で民家が流されて犠牲者が出ている。膨大な土砂で埋まった谷の一部は、岩を埋め込んで自然風にしたコンクリート護岸でかためられていた。
百間渓谷は旧大塔村時代は、入場料をとるほど観光客でにぎわったという。
午前9時に出発。支流沿いに15分ほど登ると「梅太郎渕」という小さな滝がある。
ルートが見当たらないと思ったら、巨岩の下にもぐりこむように鉄の階段が設けられている。
巨大な岩をくぐるようにしてのぼると、すぐに「かやの滝」があらわれる。
絹糸のような水が透明な水をたたえる滝壺に落ちる。
苔むした遊歩道をのぼっていく。
「難渋の壺」は、くぼみにはまった小石がくるくるとまわることで、穴があいた「甌穴」がいくつも見られる。
吊り橋を渡り、胎内くぐりのような巨岩の下をくぐる。
「雨乞いの滝」は、細い滝が広々とした滝壺に落ちていて泳ぎたくなる。
100メートルごとに滝や淵がある。箱庭のように、渓谷美がギュッと凝縮されている。
9時50分、糸を引くような「犬落の滝」は、水の流れ落ちる部分になにかがはさまっているように見える。奥歯にものがはさまっているようだ。
ここから百間滝への道が左手に分岐している。150メートルというから、たどってみたが、土がざらざらと崩れる急坂で、踏み跡もわからずあきらめた。
犬落の滝より上は、「健脚コース」という。
すぐに急登がはじまり、緑の苔に覆われた巨岩がごろごろ転がる谷をさかのぼっていく。何度も道を見失う。ぐるりと見渡して、カラーテープや石段らしきものをさがしながら歩く。巨岩だらけの谷は、道がなければおそろしく体力が必要であることがよくわかる。
10時25分、谷がぽっかりと広まったと思ったら、なめらかな巨岩の上をなめるように滑り下る小さな滝がある。(標高654メートル、2.8キロ)。看板はないが「滝の谷滝」だろう。
案内板はないが、「夜明の釜」だろう。さらにちょっと登ると、もっと巨大な「釜」があった。
「釜王の釜」という。
その上はスギヒノキの人工林があらわれ、10時44分、百間山への分岐に着いた。
百間山への登山道に入るとすぐ急登に。岩が多い尾根に近づくと、シャクナゲやコウヤマキ、ツツジの一種などが生えている。春は花が美しいだろう。おだやかな鞍部にはヒノキが植えられている。クマザサが多い。早足で下ったら半袖では腕を切りそうだ。
大汗をかきながら約30分で頂上に着いた(11時15分)。標高999メートルだから分岐点からの標高差は250メートルほどだった。登山口から4キロだから、600メートル余りの標高差も距離も土小屋から石鎚山に登るのとほぼ同じだ。
頂上は三角点があるが、眺望はゼロ。
帰りは、分岐まで下りて反対側に5分ほど歩き、林道の終点に出た。
作業用モノレールのレールがあるわきに「千体仏」という案内板がある。工事の看板の裏に、石碑に見えなくもない板状の岩が何十も倒れたり立ったり、折り重なったりしていた。仏、というよりも、落人の墓のように見える。
帰りはゆっくり1時間半ほどかけて下った。
8キロの道のりだった。
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