庶民の台所
朝、先生と待ち合わせ、牧志の公設市場を案内してもらった。
周辺の商店街は土産物店だらけだが、かつては地元のための餅やお菓子類を売る店が十数軒もならんでいた。今も4軒ほど残っている。
公設市場は老朽化で建て替え中。仮設店舗にうつり規模が半分程度になっている。
肉屋には、豚足や顔の皮(チラガー)、内臓(なかみ)がならぶ。チラガーのスモークはカレーに入れてもおいしいという。
魚屋には、巨大なハリセンボンや鮮やかなイラブチャー(アオブダイ)、マングローブのガザミなどなど。イラブという海蛇は滋養強壮の薬になるらしい。海蛇の粉が1000円だから買ってみた。濃厚な鰹節の味だ。
その後、マンションの一室のスタジオに移動する。
料理は、ラフテーとクファジューシー(炊き込みご飯)、ゴーヤチャンプルー、アーサ汁の4品とゴーヤのジュース。
下準備
事前に三枚肉を水の入った鍋に入れて1時間から1時間半下ゆでしてある。圧力鍋なら短時間でできるかもしれない。
この肉がメインの食材だ。
加熱して肉から脂を抜くことで脂はコラーゲンに変わる。ゆで汁が冷えると肉から出た白い脂がかたまる。これを取りのぞくと透明な「豚だし」ができる。
もうひとつ、鰹節でだしを取っておく。和食で使う鰹だしは沸騰したらすぐに鰹節を湯から取り出すが、沖縄ではぐつぐつと7、8分煮つめる。
ラフテー
鍋に鰹だしと泡盛と砂糖を入れて煮立たせてから肉を入れる。ぐつぐつしてきたら醬油(大さじ3)を3回にわけて入れる。少しずつ入れることで肉のなかまで均一に味がつくんだそうだ。
煮汁が減って粘りが出てきて、混ぜて細かい泡がたつようになったらできあがり。
ちなみに手間のかかるラフテーはハレの日の料理という。沖縄そばに入っている三枚肉はラフテーではなく、だしを使わない「三枚肉の煮付け」という。下ゆでは同じだが、だしを使わず醬油と砂糖で10分間煮たら完成する。
クファジューシー
クファジューシーは「かたい雑炊」を意味する。
下ゆでした肉と椎茸と人参を5ミリ角に切って、米といっしょに鍋にいれ、米と同量のだし(鰹2+豚1の割合)と塩、醬油、サラダ油(小さじ1)を入れて炊くだけ。
沖縄ではしょうゆは貴重品だったから、庶民の料理は塩や味噌で味をつけてきた。
ジューシーも塩が基本で、しょうゆは風味付けに使うイメージだ。
サラダ油はごはんがくっつかないようにするために加える。
豚の煮汁まで無駄なく使うことに関心する。「豚と鰹のだし」はまさに沖縄そばの味だ。
沖縄県は一人あたりの昆布消費量が長らく日本一だった。江戸時代の北前船が北海道の昆布を沖縄に運び、さらに清にまで渡った。沖縄では貴重なめでたい食品だった。
昆布は沖縄人の長寿を下支えしたとも聞いていたから、昆布だしの文化だと思っていたが、貴重な昆布はだしには使わないという。
こうやって料理を教わると、「豚と鰹のだし」が沖縄料理の基本であることがよくわかった。(つづく)
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