MENU

熊野古道・紀伊路⑪鰹節発祥の地(塩屋~印南)

見出し画像
目次

切り花と民間信仰の道

20210605光専寺へ (4 - 4)

 御坊市の海沿いの塩屋地区の光専寺には、樹高14メートル、幹周6メートル超、推定樹齢600年以上というビャクシンの巨樹がそびえる。竜巻が渦巻いて空に吸い込まれていくような形状で、大蛇になった清姫を彷彿させる。
 観音山の坂をのぼると、海の眺望が広がる。色とりどりの花が咲く温室があちこちに立っている。
「このへんは潮があるからミカンができず、昔はサツマイモなどをつくっていた。今は花や」と、通りがかった男性が説明してくれた。御坊はスターチスやカスミソウなどの切り花の全国有数の産地なのだ。

清姫草履塚と十三塚まで-12

 千手観音をまつる観音寺、清姫が草履を脱ぎ捨てたという清姫草履塚を経て十三塚を参る。出羽の山伏13人が阿波の海賊に殺され、里人が葬ったと伝えられる。南北一直線に14メートルの間隔で13の塚があったが、1962年ごろの国道改修で1カ所にまとめられた。

20210605庚申と自然石の頭地蔵 (4 - 5)

 石積みの石室がきれいに残る6世紀後半の広畑1、2号墳、井戸の水のなかに仏をまつる「仏井戸」、漁民センター前の「上野王子跡」の碑、青面金剛像の庚申さんと頭が自然石の石仏をまつったお堂……、多種多様な民間信仰の足跡を味わえる。

紀州漁民が発明した鰹節

20210605鰹節発祥の地へ (1 - 6)

 国道の坂をのぼりきると、印南町に入り、印南漁港が眼下に広がった。高台の森の叶王子(津井王子)は夢が叶うの意味から「おかのさん」と呼ばれている。

20210605鰹節発祥の地へ (4 - 6)

 王子から漁港に下ると港の公園に「かつお節発祥の地」という碑があった。
 1600年代初期(江戸初期)、印南村の漁師たちは九州の日向まで船団をしたてて漁に出かけていた。
 そのとき、漁民のリーダーだった角屋甚太郎が土佐の足摺岬にカツオの好漁場を発見。それ以後、10カ月は土佐で漁をして、2カ月だけ印南にもどる出稼ぎ漁が盛んになった。
 カツオは初夏から秋にかけて大量に釣れるため、従来は煮て乾かして保存していた。甚太郎はそこに、煙でいぶす工程を加える燻乾法(くんかんほう)を考案し、息子の2代目甚太郎が、青カビをつけて乾燥を繰り返す現在の改良土佐節を編み出した。2代目甚太郎は1707年に印南に帰った際、宝永の津波で亡くなった。この津波で印南は壊滅し162人が死んだ。
 さらに数代後の角屋の当主、5代目甚三郎のひとり息子は奉公人と恋に落ち、身分違いに悩んだ末に心中してしまう。甚三郎はショックを受けて角屋の家督を甥にゆずり、土佐に生活の拠点を移した。それが土佐での角屋の華々しい活躍につながったという。
 甚太郎親子が考案した鰹節の製法はその後、印南の漁民である森弥平兵衛によって枕崎(鹿児島)に、印南与一によって南房総や西伊豆にもたらされた。印南町史の「出漁死没者名簿」によると、江戸時代、旅先の土佐方面で78人、銚子方面で58人が亡くなっている。
 18世紀末の天明の大飢饉によって、印南漁民は土佐からの引き揚げを余儀なくされ、カツオの通い漁は終わる。蓄積した資産を捨てて引き揚げたため、沿岸漁業は火が消えたようになった。
 いま印南には鰹節づくりを受け継ぐ人はいない。

悲劇の天才、平賀源内の勘違い

20210606切目王子 (2 - 5)

 印南漁港から2キロちょっとの切目神社は、九十九王子の中でも格式が高い「五体王子社」の切目王子跡だ。「平治の乱」(1159年)では、平清盛が熊野詣でに出かけたすきに源義朝らが京都で挙兵。知らせを受けた清盛は王子社で会議を開いて都に引き返した。
 うっそうとした境内の森に、幹周4メートルのホルトノキ(県天然記念物)が生えている。
「ホルト」とはポルトガルを意味し、高松藩に仕えていた平賀源内が、紀州の産物を調べた際、湯浅町の深専寺に生えていた木を「ポルトガルの油がとれる木」、つまりオリーブの木と勘違いして命名した。当時オリーブ油は蘭方外科の医薬品として珍重されていた。
 源内がオリーブと誤認した深専寺の木は和歌山県の天然記念物だったが2006年に枯れてしまったため、切目神社の木が県内で最大のホルトノキだという。
 源内はもとは本草学者(博物学者)だが、オランダ製のエレキテル(摩擦起電器)を独力で修復し、万歩計(量程器)や方位磁石、温度計も見よう見まねで制作した。うなぎ屋の「本日丑の日」のコピーも考案し、土用の丑の日に鰻を食べる習慣を根づかせた。元祖コピーライターだった。まさに日本のレオナルド・ダ・ビンチだった。だが最後は殺傷事件を起こして自首し、伝馬町の牢屋で獄死した。(つづく)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次