近鉄長谷寺の駅に下りると、深い緑に包まれ、ジーというアブラゼミの鳴き声が耳に入った。なつかしい夏の音。昔は真夏の暑さを象徴する音だったが、温暖化で、京都や大阪ではシャンシャンというクマゼミがはびこってしまった。長谷寺は標高がちょっと高いせいだろうか。クマゼミの侵入を許していないようだ。
昔ながらの門前町風のまちなみを15分ほどたどる。葛きりやズイキ、ヤマクラゲ、シイタケなどを売る店がならぶ。
拝観料500円を払って山際の仁王門をくぐると、燈籠がつるされた399段の登廊だ。ツクツクボウシの声が聞こえてくる。標高が高いから大阪よりだいぶ涼しい。
断崖に建てられた、清水寺のような舞台づくりの本堂から読経の声が流れてくる。
国宝の本堂の舞台からは歩いてきた緑の山里を見渡せる。本尊は高さ10メートルの室町時代につくられた金色の十一面観音。やさしい表情をたたえる。両脇の難陀龍王と雨宝童子像の表情もやさしい。
西国三十三所の開祖である徳道上人がひらいた寺とされ、石手寺も属している真言宗豊山派の総本山だという。知らなかった。
山の信仰からはじまった修験の寺だったのだろう。
駅方面にもどる途中に徳道上人の御廟塔がある番外の法起院に立ち寄った。
石塔のわきに「はがきの木」がある。葉の裏に文字を書くと浮かび上がることから「はがき」の語源と伝わっているという。正式名はタラヨウというらしい。はがきの木、どこかで見た記憶があるが思い出せない。熊野古道だったろうか。
電車で橿原神宮前へ。バスに乗り換えて石舞台古墳のすぐ近くにある岡寺をめざす。25年ぐらい前、女の子と自転車で急な参道を登った記憶がある。
バス停から1キロほど登るだけでも暑い。長谷寺より暑いのは標高が低いせいだろう。
でも暑さとコロナのおかげで人が少ないのはありがたい。
本尊は如意輪観音で重要文化財。国内最大の塑像だ。間近に本尊を見られる。仏像にこんなに親近感を感じるようになるとは以前は想像だにしなかった。
暑さに耐えかねて缶ビールを1本のみ、バスと電車を乗り継いで壷阪山駅へ。最終のバスで山の上にある壺阪寺に向かった。
インドからもってきたという巨大なレリーフや大仏があちこちにならぶ「お金のありそうな寺」。でも1964年からインドのハンセン病患者を助ける活動にかかわり、ウガンダの支援活動もしてきたそうだ。
本尊の十一面千手千眼観音も間近でお参りできる。頭が大きくて、頭の上の冠のような観音や無数の手も大ぶりだ。長谷寺とちがってちょっとこわさを感じさせる。
最終バスは終わってしまったから、帰りは40分かけて駅まで歩いた。
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