朝食は、おじさんのかわりに息子のお嫁さんが給仕をしてくれる。みんなで卓を囲む雰囲気は高齢者向けユースホステルだ。雨は7時にはやんだ。
宿場町だったからか、集落は独特の雰囲気がある。15分ほどで急な山道に入る。
登山道沿いに「うんちダメ」の看板がいくつかある。野ぐそを好んでする人なんか、人権派弁護士のノグソケツロー以外には見たことがない。「ダメ」と言われてもどうしようもないと思うのだが。
登山道を1時間登り草原が開けると尾根の車道だ。登る途中、聞こえていたゴーゴーという音は吹き抜ける風の音だった。
車道をしばらくのぼり、ふたたび小径に入る。よく手入れされたスギの森だ。時折日差しが差して、霧のベールが輝く。
9時、雲辺寺に着いた。
木を伐採するチェーンソーの音が響きわたる。標高900メートルを超え、八十八カ所でもっとも標高が高い。
冷たい空気と水はおいしいが、本堂や山門が新しくて風情はいまひとつ。
願掛けのナスビの像はいつだれがつくったのだろう。
9時半発。五百羅漢が森のなかに大量にならぶ。
落葉樹の森は明るいけど、風が通って寒い。途中、観音寺の平野が見渡せた。あちこちに点在するため池が香川らしい。
1時間20分ほど下り坂がつづき、10時50分に車道に出た。
広々とした里のみかん畑に座り、民宿でいただいた握り飯を食べる。ゴマと鮭のおにぎり1個ずつ。ゴマをまぶしたおにぎりがおいしい。塩加減もぴったり。心がこもっているのがわかる。
「おいしいもの」を求める欲が消えて疲れたらカロリーメイトを口にするぐらい。昼飯すら食べようと思わない。だからおにぎりひとつでもありがたい。雅子ちゃんにもらったプロポリスのど飴も、行動食として活用している。欲が消えたから逆に、お接待のありがたさがよくわかるのだろう。
道すがらはため池だらけ。ハスを栽培している池もある。平野をはさんだ海沿いに山がそびえている。これから行く寺はあのあたりなのだろう。
ごつごつした小山が平野にいくつもそそり立っている。讃岐独特の光景だ。なぜこんな地形ができたのか、と思ったら、友人KがFBで解説してくれた。
正午過ぎ、大興寺の裏に着いたが、仁王門のある正面まで下る。
水田に面した仁王門は、とりわけ大きな仁王さんがいる。
100段ほど石段を登る。本堂のなかに納経所がある。風音の合間に風鈴の音も聞こえてくる。
「善根宿銭形」という看板をいくつか見た。さっきの寺では「銭形…はお寺とは関係ありません」という掲示があった。なにかでもめているのだろうか。
海側の大きな山の左側にある観音寺のまちに向かう。
中心街がいまひとつわからないまま財田川の河口近くを渡る。「財田川」の名はえん罪事件で有名だ。
琴弾八幡宮は大きな神社だ。神社の山の裏手にまわり、総持寺の白い塀ぞいに歩く。この風景は覚えている。
14時半、仁王門をくぐり、中腹まで石段でのぼると、68番神恵院と69番観音寺が同じ境内にある。
根っこが小山のように盛り上がったクスの巨木がそびえて立っている。68番の本堂はコンクリートの建物に囲まれている。境内に飲食店も備える。
15時発。財田川沿いを4キロさかのぼると、対岸に五重の塔が見えた。16時2分、本山寺に着いた。
平地の広々とした寺。明治に建てられた五重の塔は遠方からもわかる。仁王門は重文だ。納経所の若い坊さんは「この時期、いつもなら団体さんがたくさん来るのに全部キャンセル。お遍路専門の旅行社がつぶれたそうです」
16時半、ワンルームマンションを活用した本大ビジネスホテルに着いた。4400円。
国道の王将で生ビールと餃子と丼物(1500円)を食べ、スーパーでワインとカップ酒を買った。(つづく)
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