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遍路⑳四万十から足摺 入野〜土佐清水20200224

 夜行バスで朝6時半に土佐入野駅近くでおろされた。
 まだ薄暗い払暁、薄いずぼんでは冷える。手袋をしても手がかじかむ。だが太陽が昇り7時をすぎるとちょうどよい気温になる。

 高知県は忠魂碑も多いけど「九条の会」も多い。自由民権以来の流れがあるのかな。
 ウグイスが一人前のきれいな声で楽しそうにおしゃべりしている。でも姿は見えない。
 入野浜の端の田野浦港のわきを通り、四万十大橋に向かう農道をたどる。90歳のおばあさんに100円玉をお接待してもらった下田の渡しに乗りたいが、予約がめんどうだからやめた。
 ウグイスだけでなく田の畦にはツクシも顔を出している。春の植物は生命力にあふれて愛らしい。
 1週間前の最後の数日のようなスピードは出ない。「スーパーお遍路」になれたのは一瞬だけだった。1週間も歩かないと元に戻ってしまうようだ。

 四万十川を渡る。2度カヌーで下ったし、それ以外にも何度も遊んだ。セイラ四万十?とかいうちょっと高級な宿や天然ウナギを食べさせる民宿にも泊まった。能天気に幸せな日々だった。
 今は雄大な流れに楽しさはない。世の中のすべては流れゆくのに川の景色が変わらないからなのかもしれない。

 小舟浮く鏡の大河四万十よ 此岸の涙集めて流る

 9時、四万十大橋を渡り、土手の道をたどる。川を眺めるとため息ばかり出て、歩みが遅くなる。
 四万十川と別れて初崎の分岐の「田子作」といううどん屋の先に、トイレのある休憩所があった。靴下を脱いで乾かす。

 まもなく「大文字」という案内板を見つけた。海抜30メートルほどの小さな山に「大」の字があった。
 500年前、関白の一条教房が、京都を模して中村の町づくりをした。大文字の送り火は、土佐一条家二代目の房家がはじめたと伝えられている。何か京都風の習俗が残っているかもしれない。
 伊豆田道への旧道に入る。あちこちにハチの巣箱がある。養蜂業者は全国を渡り歩くと聞いたことがある。寒い時期だから高知にいるのだろうか。
 まもなく杉と竹の山に入る。
 「草刈り接待」とたちバサミをつるして「雑草を刈ってください」と書いてある。でもはさみは元に戻さなければならない。草刈りをしたあと同じ場所に戻るのはさすがにしんどい。

 けっこう急な山道を登っていくと、陶磁器や瓶の破片があちこちに転がっている。そう思ったら11時14分、峠に着いた。石積みもあるから、きっと人が住んでいたんだろう。
 30分かけて、川沿いの車道に出た。すれちがったおじさんは「山越しーしてきたんか。えらいのぉ」。高知らしい。

 山に囲まれた里に出たら市野瀬橋だ。車道から山際の集落にわけいり、竹林に囲まれた森のなかに真念庵があった。

 地蔵がずらりと並ぶ。お堂は真新しいが、地域の人が大切にしているようだ。正午になった。ぎりぎり20キロに届かなかった。
 竹林のなかの小径をたどる。石積みの土台の上に墓が林立している。集落の端の山際は墓地だったのだ。
 ときどきカーンという音が鳴るのは、動物ではなくて、竹が割れる音なのだろうか。

 車道に出て、川沿いに下る。民宿に電話するが、どこも連絡が取れないか休み。足摺岬まで行くと40キロを軽く超えてしまう。土佐清水方面をさがすと、民宿「みかんの家」を予約できた。

 13時20分、下ノ加江。ローソンで休憩しようとしたらその裏が、昔泊まった「安宿」だった。煮魚がドンと鍋で出てきて、「靴ひもは最初の穴は通さないほうがええ」と説教する兄ちゃんがいて、連休中だったから混んでいた。宿の名前も含めて濃いい経験だった。そんな宿でも、悪口も含めて話がはずんだ。
 きょうの目的地まではあと13キロ。13時過ぎから13キロというのは今回の遍路では経験がない。

 14時46分、大岐の広大な砂浜が樹間からのぞいたとき、その規模の大きさに圧倒される。10人ほどがあちこちでサーフィンしている。
 この松原は官有地だったが、地元の運動によって払い下げられた。半分は開拓されて畑になった。今も浜の周囲は部落共有だという。浜に下りて、砂浜をたどる。


 国道にもどり、鯨のオブジェのある幡陽小学校前を経てトンネルを抜けると土佐清水のまちだ。

 まちの入口の「ビジネスホテル南城」はけっこう大規模だが今はやっていないらしい。そういえば電話した宿はどこもつながらなかった。地方都市の衰退を象徴している。メルヘンという喫茶店はつたがからまってお化け屋敷のようになっている。
 ローソンとサニーマートは元気だ。
 海辺の「足摺黒潮市場」では2人でゴマサバを食べた。あちこちでおいしいものを食べて喜んでいた。そんなグルメ旅行は二度としないだろうな。
 16時45分、宿に到着。37.6キロ、55421歩。今回の遍路では最長記録となった。
 サバとハガツオの刺身がおいしい。ハガツオは歯が出っ張っているからその名がついたとか。新鮮じゃないと刺身にできないという。豚肉の炒め物もあって大満足。ビールを入れて7500円。(つづく

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