午前6時の開門と同時に有峰林道に入り、広々としたキャンプ場のある折立から7時前に歩きはじめた。標高1380メートルほどだから頂上まで約1600メートルだ。
樹林帯の急坂を1時間ちょっと登ると尾根に出る。8時すぎ、剱岳を望める三角点(1870メートル)のベンチで休憩する。
ここからは広々とした高原の散歩道をゆるやかに登る。眼下に有峰湖、西に白山がそびえる。
五光岩のベンチ(2155メートル)でもう一度休んで10時15分に稜線上の太郎兵衛平に着いた。立派な小屋とトイレ、水場もある。
眼前に黒部五郎や三俣蓮華、水晶などの北アルプス深奥部の山々が連なる。深い谷の反対側に広がる巨大な台地状の高原が雲ノ平だ。
薬師岳方面に向けて木道や階段を15分ほど下ると、薬師峠のテント場がある。水場は水量が豊富でトイレもきれい。
岩がゴロゴロの沢を登る。これまでが快適すぎる道だったから、沢沿いはけっこうつらい。でも30分で登りつめると広々とした「薬師平」の草原と木道が現れる(11時20分)。白山や御嶽山も望める。
目の前の山並みの向こうに槍ヶ岳を見つけて喜び、さらに進むと穂高の山々が現れた。
北側の海の対岸には能登半島がうっすら浮かんでいる。
岩稜の尾根をたどって12時15分に薬師岳山荘に着いた。
真新しい小屋で、スタッフのお兄さんやお母さんの感じもよい。
荷物を置いて頂上に向かう。20分かけて登った避難小屋跡あたりが頂上かと思ったら、「頂上あと少し。30分」という標識にがっくり。稜線上をゆっくり登って13時10分に頂上に着いた。
360度の大展望。立山や剱岳、その後ろの白馬や鹿島槍、五竜がのぞく。
槍ヶ岳の左に目をこらすと、お椀を伏せた形の山がうっすら見える。富士山だ。
1時間ほどかけてスケッチを試みるが、山の陰影をどう描けばよいかわからない。
しばらくするとわずかに雲が出てきた。白山が雲の上に青く浮かんでいる。テントをかついで2人で何度も登ったのを思い出す。
のんびり休み休み下りて16時前に山小屋に入った。きょうの宿泊客は20人ほど。まずは缶ビール(700円)をあおった。
下から雲がわいてきて雲海になっている。白山の頭がその上に離島のように浮かぶ。天上の世界の景色は透明感があり清らかだけど、しょせん「この世」なんだよなぁ。
17時からの夕食は、週末に小屋を閉じるからコロッケやとんかつが食べ放題。でも17時25分頃が日没だからあわてて腹に詰めこんだ。
夕暮れ。雲海が消えていたのは残念だけど、地平線からあかね色に染まり、天頂に近づくにつれて宇宙の色を深めるグラデーションに見とれる。
東の空には大きな月が浮かび、槍ヶ岳を照らしていた。
登山客と山の話をひとくさり。山は好きだけど、僕は山だけにのめりこめないんだよなぁ。ほかに何をやりたい訳じゃないけど。
月が明るすぎて星は少ない。気温は3度程度。20時ごろふとんに入った。
5時に電灯がともり、5時半から朝食を食べ、外に出ると真っ白な霧に覆われている。
小屋の隣のベンチ周辺で雷鳥が5羽も歩いていた。
小雨のなか、6時42分に出発。30分後に薬師平に着くころには霧が晴れ、わずかに晴れ間も見えてきた。曇りの日の紅葉もしっとりしていて美しい。
薄墨色の能登半島は薄掛け布団のよう。きのう以上にはっきり見えて、能登島の橋もわかる。思い出の多い能登を虹がうっすら彩っている。虹はなにも語らないけれど、何かを伝えようとしているように思えてしまう。
太郎兵衛平を経て小屋の裏手の太郎山に登った。能登を眺めながら弁当を食べ、ケーナを吹いた。
悲しい時は散文は書けない。気持ちと風景をギュッと圧縮できる短歌や俳句がふさわしいと、この1年感じてきた。今回も試しにつくってみたが、帯に短したすきに長し。
海へだて薄墨布団の能登の山 虹が彩る幸せの日々
9時半発。一気に下って、12時18分に折立に着いた。
帰途、亀谷温泉白樺ハイツという国民宿舎で入浴した。源泉掛け流しで、源泉そのままの水風呂もうれしい。620円。
目の前の民俗資料館も充実していて2時間も長居してしまった。
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