7時前発。みかん畑をのぼっていくと、茅葺きの休憩小屋ができている。
簡易舗装の急坂を1.5キロ登ると水呑大師。ここからは道が国史跡に指定されており地道になる。太陽が差すと、杉の森に命の光が降り注いでいるようだ。
休憩用ベンチから眼下に那賀川、その向こうに大龍寺の山がそびえる。逆光でもやがかかって、谷間のハウスが輝いている。
石畳をたどり、参拝者が泊まった通夜堂の遺跡を経て、8時10分に鶴林寺に到着した。
山門にも本堂前にも鶴の像が鎮座している。ここまで340メートルのぼった。気温は氷点下0.9度。
急な山道を40分ほど下り、みかん畑にでてすぐ東屋の休憩所がある。以前はもっとみかん畑が広かった。今はだいぶ荒れている。山だから条件が悪く衰退したのだろうか。
休校中の大井小学校でトイレを借りる。木造校舎が残る感じのよい学校だ。
新興宗教の巨大な建物はよく覚えている。近くに犬の生首があって「生け贄にされたんやろか」とサルがびびっていたっけ。
川を渡り、谷沿いに簡易舗装の道をのぼる。野宿遍路の若者が抜いていく。谷のどん詰まりまで棚田の石積みが残っている。こんな奥までコメをつくっていたのだ。
「あと1.6キロ」の標識から山道に入る。急坂を登っていくと、先方からカンカンカンと人工的な音がする。7、8人のボランティアが遍路道の階段を修理している。25年ぶりという。
尾根の車道に出た。道の両側にシャクナゲが植わっている。11時15分、太龍寺に着いた。
木造の寺務所の前は白い石が敷き詰められ、花木が植えられ、桜が咲いたらきれいだろう。本堂は鐘楼をくぐってさらに100段ほど登る。左手にロープウェーの駅舎がある。
納経を終えて、ベンチで握り飯を食う。氷点下の空気は、だらだらものを考えないですむからありがたい。納経所の男性にどの道をたどるとよいか尋ねると「車道が一番です」とのこと。
舗装された寺道を1時間弱下って、日溜まりのような谷間の里におりたった。棚田はススキが茂っている。公衆トイレを経て「民宿坂口屋」の横を通って県道に出た。谷沿いの1車線の県道は「太龍寺鉱山」周辺からの残土を積んだダンプがひっきりなしに通過する。
国道の道の駅に立ちよった。前回は2人で食事をしたが、今回は素通り。
ふたたび谷沿いの小径をたどる。枯れススキに覆われた柑橘の木が実をつけている。梅の木もあるが、荒れた山では寂しげだ。梅は里にあってこそ映える。
峠道を登っていると、老夫婦が下りてきた。「全部で240段だからすぐだよ」。「大根峠」の名前の由来を尋ねると「ダイコンじゃなくてオオネだよ」と笑った。
峠からはひたすら下り。だらだらした道では余計なことを考えてしまう。
40分ほどで小高い山に囲まれた、阿南市新野町岡花という穏やかな里に着いた。種まきしているおばあさん、あいさつする笑顔がかわいい。菜の花の黄色がまぶしい。農家も立派な家が多い。
15時24分、平等寺に到着した。山のふもとに、素朴だけど立派な山門がある。懐かしい。山門には百合の花が飾られ、手水鉢にも花を沈ませている。ちょっとした気遣いがうれしい里の寺だ。
山門の隣の山茶花という宿にチェックイン。前回は大広間みたいな部屋だったが、きょうは10畳ほど。風呂は大きめで気持ちよい。
食事は、「魚が小さいから2匹にした」と、焼いたタイが2尾、刺身はカンパチ、酢の物、和え物、煮物……おばちゃん手作りのおかずばかりの大ごちそうだった。(つづく)
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